建築家吉村順三(1908~1997)の軽井沢山荘は、森の中に作られ、森を最大限楽しめるように設計されている。
森を損なわないように、必要最小限度の規模と片流れ屋根のシンプルなデザイン。
主階は2階で、「室内にいながら戸外にいるような気がするだろう?樹々のほかは何も見えない」(『小さな森の家』)。7


建築家伊礼智は、吉村の薫陶を受けている。
「名建築と言われる多くの建築が緑とともにあるように、建築は単独で美しいのではなく、緑と響きあって四季をまとい、環境と呼応することでよい佇まいとなる」(『伊礼智の住宅デザイン」p100)。
そのために「建物面積を敷地の3割程度に抑え、断面も、「いかに階高を高くするか」ではなく、天井高2千100mm程度に抑える」(p8)。つまり家を小さくして、木立の中に佇ませる。

2020年1月19日、伊礼が設計した「里山住宅柴モデル」(つくば市、柴材木店)を見学した。

まず外観は、シンプルな平屋建てで、雑木類が屋根を超えて、まさに森に佇む。

室内は南北と東西に軸があるシンプルなデザイン。北側は里山の借景を取り入れ、南に主庭が造園されている。どこからでも緑が見えるように設計され、また植栽がされている。

居間から南側の庭を望む。

居間に続く食堂から北側の里山屋敷の風景を望む。

すべての窓からは風景や樹木が見える。

室内の写真撮影は禁止だったが、雑誌ビルダーズに詳細が紹介されている。

伊礼は、「外でもなく、内でもない半屋外空間には、さまざまな楽しさや可能性が秘められている」(p82)

軒下空間続くデッキが重要な役割を果たす。

伊礼とコラボして、「森」を再現しているのが造園家荻野寿也だ。

荻野は元々は建材販売やゴルフ場管理が家業で、造園は新規参入してから20年?ほど。そのために固定観念に囚われない独自の作風を築き上げている。建材販売の実績ということから建築家とのコミュニケーションに長けている。家の中から庭を語れる唯一の造園家ともいわれる。

そして並外れた向学心。私は2016年12月に、大阪の古川庭樹園の古川元一さんに連れて行ってもらって荻野さんの事務所を訪ねたが、植生・ガーデニングなどの原書がズラリ。

『荻野寿也の「美しい住まいの緑」85のレシピ』を読むと、奥入瀬渓流などの自然美を生け花的に取り入れ、造園に生かすなど、膨大な知の蓄積をうかがうことができる。

左荻野さん、右古川さん