いわき市幼保連携型こども園さとがおかキンダーガーデン(以下さとがおかKG)の前山成子園長から、「里山を園庭に作ってほしい」というメールをいただいたのは、2021年12月だった。(実は前山園長はそれ以前にメールをくれたらしいが、私が見落とした)。
さっそく園に伺ったが、まず子供たちの元気の良さに驚いた。自分たちが作った大根を生でかじって、私にも食べろという。いただいた給食は、園の栄養士さんが作り、素材がしっかりと味わえて、本当に美味しかった。
園長先生に聞けば、「遊ぶ、食べる、眠る」を大事にしているという。
園の基本理念に感銘して、仲田種苗園の生産設計施工一貫体制で計画を進めることになった。
■基本構想・基本計画
子どもの遊びの研究が専門の寺田光成さん、生態学が専門のマリアエルミロバさんは千葉大学で造園学の博士号を取得したご夫婦。私たちが石川町中田「やまびこテラス」で実施している環境教育などに参画して親交が深い。その縁で、基本構想と基本計画を2人にお願いした。
2016年まで、さとがおかKGには築山があったが、園舎建て替えに伴って撤去された結果、子供たちの遊びが単調になってきたという。また公園のような疎らな植栽で、生き物が少なくて、園長先生がコオロギを買ってきて、子供たちにみせていた。
そこで基本計画では、園舎北側の園庭にミニ里山(築山)をつくり、多種類の樹木と野の花マットを植栽して、子供たちが生き物と触れ合う場を提供することとした。諸事情からビオトープは2期工事とした。
里山園庭は、仲田種苗園生産設計施工の一貫体制。一般的には設計図をもとに材料を探すが、マリアさんは「木登り用」などの役木を種苗園の圃場で探して、それをスケッチにした。園関係者は、植栽後に「まるで絵みたい」と驚いた。
2022年5月に基本構想・基本計画を終えた。
■実施設計
同年7月、改めて実施設計と施工を仲田種苗園が受注した。工事は運動会終了後の10月15日から12月末まで。現場代理人は、私(仲田茂司)の従弟でNPO法人ビオトープ協会役員の佐川憲一君に依頼した。たまたま彼は園と同じ団地に住居を構えていた。
実施設計を行うにあたり、私は工事着手前に10回以上園を訪れて、子供たちの動きを観察した。
暑い中、子供たちは走り回っていた。この動線を確保することと、日蔭を確保することが大事だと私は考えた。
下の写真は、園が子供たちを定期的に遊ばせている「金成(里山)公園」周辺の里山である。森、草原、沼・水田がモザイク状に入り組んでいる。このモザイク状の土地利用が、多種類の生物が生息する場を提供する(生物多様性)。
里山園庭の実施設計においては、里山の森を円形の植栽単位「里の森ユニット」に見立て、大小のユニットを配置した。
■「土の中も里山にしよう」
造園工事の方針は廃棄物を出さない。枝一本外に運び出さない。大きくなりすぎたユリノキや樹勢が弱ったコナラなどを伐採したが、それらの材を築山工事の過程で、幹を立てたり枝を敷いたりした。水や空気を循環させ、腐食の過程で、微生物が発生し、その後ミミズなどど生物が生息する。
■里の森ユニット
私たちは、2010年アクアマリンふくしまエッグの森で、高木寄せ植え方法「鎮守の森ユニット」を開発した。寄せ植えすることで、植え枡の容積が増えて根系の発達を促し、地上部においては木々がスクラムを組むことで潮風に耐えられる。2023年現在、鎮守の森ユニットの樹勢は極めて良好である。
アクアマリンふくしまエッグの森「鎮守の森ユニット」(2010年)。
「里の森ユニット」は、高木中木低木を組み合わせて、森を再現した。
植栽土は、里山の黒色土を搬入、さらに燻炭を混合して、根が張り、また微生物や土中生物が生息できるようにした(高田宏臣「土中環境」)。
里の森ユニット(下の写真):アオダモ高さ8mを芯(真木)にして、アオダモ、コナラ、クマシデ、エゴノキ、シラカシ、ヤマボウシ、シラキ、ニシキギ、ムラサキシキブ、イボタノキ、シャリンバイなどを寄せ植えした。クヌギ材の土留めは、ベンチも兼用する。
■園舎前庭
園庭は園舎の北側にあり、築山を作った。築山南側の(園舎)前庭と北側の里の小径に分かれる。
■里の小径
里山園庭では、子供たち身体能力を高めるランニングのための動線を重視した。大回りコース(園庭をなるべく大きく走る)、冒険コース(築山の真ん中に設置したトンネルをくぐる)、チャレンジコース(築山を走って登る)。
大回りコースで築山の北側の「里の小径」は、木が覆い被さって夏の陽射しをやわらげ、クネクネした園路が運動に刺激を与えて身体能力を高める。
里の小径の植栽も寄せ植えだが、元々3種を寄せ植えしてあるハッピーツリーが抜群に効果的だった。
■野の花マット
子どもたちと生き物が触れ合えるように、里の森ユニットに野の花マットを生産チームの女性社員たちが植栽した。野の花マットにはコオロギやオンブバッタなどが生息し、花に誘われて蝶が集まり、夏からはトンボが来る。これらの昆虫を狙うたのように、里の森ユニットの高木には鳥が寄るというような生態系システムを導入した。
■成果の共有とリスクマネージメント
2023年1月7日、園職員の全体研修。寺田・マリア夫妻はリスクマネージメント、私が里山園庭の成果と管理上のお願いを話した。
里山園庭は、子供たちの創意工夫を引き出すために設計施工したが、その分リスクも伴う。園長先生はじめ職員全員が真剣に大きな事故を引き起こさないために議論検討して、ルールを決めた。
■前山希子副園長のコメント
「楽しませてもらう」のではなく、自分から「楽しい」を見つけだすことのできる、多様な発見と出会いの瞬間に富んだ、そんな園庭ができたらどんなに素晴らしいだろう。窓を開ければ冒険のはじまりがすぐそこに広がっているような…
今回の園庭づくりをきっかけに、仲田さんをはじめ、素晴らしい人たちと出会うことができて、感謝の気持ちでいっぱいです。アイデアやアドバイスも、そのすべてのまんなかに、こどもたちとその未来への想いがありました。さらには卒園生たちの宝物である、築山の復活も実現しました。とにかく挑戦と愛情に満ちた園庭です。きっと、さとがおかキンダーガーデンの園庭は、いつまでも人生を支えるゆたかな原風景となることでしょう。樹々の葉が風に揺れるなかを、自由に駆けまわるこどもたちの姿が楽しみで仕方がありません。