「(マッターホルンは)基部は堆積岩であるが山体は片麻岩で形成されている。パンゲア大陸が分裂し始めた2億年前にゴンドワナ大陸のアフリカ部分として残ったアプーリア・プレートが、1億年前に同大陸から分離しヨーロッパ大陸へ移動して乗り上げた[1]、ナップと言われる地質構造を示す。山容はその後の氷河の作用で形成されたもので、こういった地形は氷食尖峰と呼ばれる」Wikipedia。
標高4,478mのマッターホルンの尖がった部分は、古生代の片麻岩からできており、中生代の海洋堆積物が変成した結晶片岩やオフィオライト(海洋地殻とマントルの断片)を覆います。このように衝上断層によって、古い地層や岩体が、新しい地層を覆うことをナップという。ナップは卓上布からきている。
リッフェル湖(標高2757m)から望むマッターホルン
氷河が削り取り急峻な地形をつくる(氷食尖峰)
自然科学のとびら
Vol.10, No.2 神奈川県立生命の星・地球博物館 Jun., 2004
図2. スイスおよび周辺地域の地質構造帯図.
アルプスは、ヨーロッパ大陸の南西部に位置し、海抜高度が高く、氷河が高所を覆い、谷は氷河の浸食を受けて出来たU字谷をしています。氷河は、氷河の両側の崖から落下した岩片と氷河により削られた岩石の細片とが、研磨剤のように氷河の底と両脇を削りU字型の谷を作ります。スイスは、現在も氷河がありますが、第四紀の氷河期にほぼ全域が氷河におおわれたので、今日のアルプスの険しい地形は、この氷河期に形成されたもの
マッターホルン(4478m)は、スイス・イタリアの国境にあり、マッターホルンの上半分はペニン・アルプスのデンブランシェ・ナップに属する花崗岩と古生代片麻岩とからできています(図2)。ナップは、押し被せ断層と押し被せ褶曲(横臥褶曲)により地層が基盤の上を遠くまで滑って移動し、原地性の地層の上に異地性の地層が乗る構造です。語源は食卓のナップからきています。マッターホルンの下半分は、中生代の海洋底堆積物が変成作用を受けてできた結晶片岩とオフィオライト(海洋地殻とマントルの断片)からできています。つまり、古生代の花崗岩と片麻岩からなるデンブランシェ・ナップが中生代の泥岩が変成作用を受けてできた結晶片岩と蛇紋岩や緑色岩などのオフイオライトの上に乗り上げています(図3B)。デンブランシェナップは、南はイタリーのトリノの北からマッターホルンを経て北はバイスホルン(4505m)まで延びています。山麓の町ツェルマットとマッターホルン山頂の高度差は、2. 8kmもあります。ツェルマットの町は、白雲母片岩のような結晶片岩などからできていて、浸食に対し弱くツェルマットの深い谷が形成されています。
ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸に挟まれた海の海底堆積物と海洋地殻が押されて褶曲し、始新世から漸新世に押し被せ褶曲が複雑に形成され、地殻が激しく短縮し隆起しました(図、4D)。アルプス山脈は漸新世以降隆起を続け浸食され、北のモラッセ盆地に大量の砕屑物を堆積しました。アルプス山脈は、雨水に浸食され、さらに第四紀の氷河時代に氷河に浸食され、現在の地形ができたのです。
ツェルマットの街並み。結晶片岩が削られたv字谷