6月4日、秋篠宮家の長女である眞子様を、日本庭園に案内した。首都ティンプーの中心で、ブータン国民の祈りの対象であるメモリアル・チョルテンの前庭という位置にある。
この日本庭園は眞子様が主賓となるブータン花博のメインとして、私が在インド日本大使館から依頼されて、ブータン農林省のスタッフやガイドのシェラブさんとともに、作庭したものだ。昨年の暮れに大使館から打診があり、私が快諾した後は大使館の強力な支援をいただいた。特に佐藤仁美参事官には、ブータン政府の高官から現場スタッフとの調整まで、力強くも細やかな支援をいただいた。また福島県同郷の菊田豊次席公使(インド福島県人会名誉会長)からは、節目ごとに激励と感謝のメッセージをいただき、大いに励まされた。
2011年11月、ワンチュク国王と王妃は、福島県を訪問して、県民に勇気と希望を与えた。その返礼として、三春町長がブータンを訪問して滝桜を国王に寄贈し、その後、2014年秋から本年3月までの2年間JICA草の根技術協力「三春ブータン交流事業」として発展、私は元同町職員という縁で、このプロジェクトに参画した。
眞子様は6月2日日本週間オープンセレモニーの英語スピーチの中で、「ワンチュク国王と王妃の福島訪問は今も県民の心に残っている」と謝辞を述べられた。国王と王妃の福島訪問が、三春ブータン交流プロジェクトに繋がり、そして福島出身の菊田次席公使など三春プロジェクトを評価した在インド日本大使館の主催と私への強力な支援で、ブータン花博の日本庭園に結実して、眞子様をお迎えできたことは、福島県人としては感無量である。
日本庭園の面積は180㎡。築山枯山水様式だが、築山の主石は、チベット仏教の聖地であるタクツアン僧院をイメージし、流れはパロ川を青石で表し、白石の石庭は「無限大」「宇宙」を意味する禅庭を意図した。
日本庭園には、平安時代末に書かれたと言われる作庭記の「自然の摂理(原理)に従う」というように、自然に学び、自然を活かすという思想があるが、今回はブータンの風景をイメージして、植物や石もブータンのものにこだわった。
5月26日から6月3日まで、実働8日間、すべての資材を現地調達、しかも100キロを超える石まですべて人力施工という中で、「三春ブータン交流事業」で、三春町の仲間や弊社工事部長の岡部公一などとともに指導したブータン農林省スタッフが支えてくれた、まさに日本とブータンのコラボレーションガーデンだ。
しかし休日なし、早朝から深夜までの重労働で疲労困憊し、終盤ではいささか感情的なもつれも生じて、調整役のガイドのシェラブさんに心配をかけたが、そこは日本流の「飲み会」で乗り越えた。
さて眞子様は、庭にお迎えした冒頭からとてもフランクに接していただき、上がりやすい私も、適度の緊張の範囲内で、説明することができた。また眞子様の共感力は並外れていて、お人柄に加えて、かなりブータンについて研究されてきている、という印象を持った。
まずは眞子様にブータンスタッフが、自分たちだけで制作した日本式の竹垣「四ツ目垣」をご覧いただいた。「これを作る技術は、日本の2級造園技能士の取得条件です」と私が説明すると、眞子様は日本の造園技術を地元スタッフがしっかりと習得していることに感心された。
日本とブータンは、同じ日華植物区系に属していて、植生が共通している。私の印象では、屋久島の植生垂直分布とブータンの垂直分布は特に良く似ている。具体的には、照葉樹林帯を登り、屋久島で標高1800mブータンでは標高4000mの森林限界帯に達すると群生するシャクナゲだ。
今回庭で使用した樹木は、ほとんどをティンプー郊外の里山から調達した。日本庭園によく使われる松やアセビなどを、ブータンスタッフが事前に我々が指導した技術で根回ししてくれていた。この根回しがなければ短期間で庭を完成することはできなかった。またブータンの在来植物の造園的な活用については、予想以上に反響があり、在インド日本大使夫人や在ブータンインド大使夫人(日本人)などから声をかけていただいた。
眞子様を花博に招待したワンチュク国王は、日本庭園の進捗を気にされていて、政府高官にできる限りの支援をするようにと指示していたらしい。内覧会まで明後日となった6月2日、国王が視察に訪れた際に直接私に、「昨年盆栽師の平尾成志さんから寄贈された盆栽他、好きなものを使ってください」という申し出をいただいた。
実は国王の意図が当初は現場スタッフまでは十分に伝わらず、サツキを地元の個人ナーセリーで購入したものの、高さ30センチのサツキが円換算で800円と日本の2倍もする価格で数を揃えられず、庭のベースとなるマツなどは里山で調達できたが、彩りのある樹木が少なく「眞子様に申し訳ないなー」と落ち込んでいた矢先に国王からビッグなプレゼントをいただいた。平尾さん寄贈盆栽の他、王室のナーセリーからは文化交流を示すブータンの方が制作した地元盆栽、庭に彩を添える赤い葉の日本原産のノムラモミジを貸していただき、庭のグレードが一気に上がった。
下の写真は、国王から貸していただいた、日本の盆栽にもよく使われる柏松の仲間だ。標高4000mの峠から採取したもので、樹齢58年だそうだ。
下の写真は、禅の石庭である。龍安寺の石庭をイメージした。狭い庭ではあるが、進むごとに表情(風景)が変わるように「シークエンス」を設計した。
下の写真左端は、国王から貸していただいたブータン人制作の盆栽(景)である。眞子様は、「両国の文化交流がこのよう形になっているのですね」と、とても喜んでくださった。
石庭に配した5つの盆栽は、昨年の花博で盆栽師平尾成志さんから国王に寄贈されたものだ。国王自ら、私に「庭に使ってください」と言ってくださった。庭の植栽が、近くの里山から採取した自然盆栽風の松をベースとしていたために、国王の盆栽が庭に馴染み、また庭を引き立てた。国王も大変喜び、Very beautifullと何度も仰ってくださった。
築山枯山水という日本庭園の様式ではあるが、ブータンの風景をイメージし、ブータンの植物や石にこだわった日本「式」庭園である。築山の主石は岩窟寺院で松に覆われたタクツアン僧院、流れはパロ川。そして「無限大」「宇宙」を禅的に意味する石庭へと続く。また流れの青石と石庭の白石はともパロ川から採取したが、青と白のコントラストは、伊勢神宮をイメージした。
眞子様は、日本の造園技術でブータンの風景を表現していることや、チベット仏教の聖地タクツアン僧院と伊勢神宮や禅庭を造園コンセプト的につなげていることに深く共感すると、咄嗟に庭のコンセプトを英訳して、国王や王妃を始めとする王族に伝えた。そうすると王族の多くの方が感嘆の声をあげた。少し離れたところから見守っていた日本大使館の方々にも、その場の盛り上がりがわかったという。
最後に、眞子様に庭を振り返っていただき、石庭からチョルテンに向けて視線を挙げていただいた。「石庭の白とチョルテンの白で、日本とブータンの縁結びをさせていただきました」とご婚約への祝福の気持ちを込めて説明すると、一瞬はにかみながらも、晴れやかかな笑顔をされた。
眞子様を見送った後で、ツェリン・トブゲイ首相が駆け寄り、「Princess Mako is Very happy」だ、「いやー、ありがとう」と握手をしてくれた。
先頭が国王、次が王妃、3番目が眞子様、4番目が先代国王、御一行の向こうが日本庭園 asahi.com
またその夜には国王と王妃さまから、お礼の品が私の宿泊先のホテルに届けられた。使者によれば、国王と王妃様は、とても喜んでいるという。国王の品は、1907年のブータン統一を記念したウィスキーだ。
動画
眞子さま、「ブータン花の博覧会」へ ニュース映像センター時事通信