2018年11月11日、地質学の蟹澤聡史東北大学名誉教授と長瀬敏郎同大准教授の師弟が、福島県石川町中田区の変成岩を調査して、わかりやすく解説してくれた。広域変成岩の阿武隈変成岩は、変成度が弱い片岩を主体とする御斉所変成岩と、変成度が高い片麻岩を主体とする竹貫変成岩とに区別されている。
同地区の変成岩は御斉所変成岩に属するが、御斉所変成岩と竹貫変成岩の中間的な変成度を評価して、中田字矢造の地名をとって「矢造変成岩」とする学説もある(北大と地元研究者の三森たか子氏の共同研究)。

変成岩を利用した「矢羽根積み」を観察する蟹澤名誉教授と長瀬准教授(中田字上矢造)

変成岩について解説する蟹澤名誉教授(中田字宮後)

■黒雲母片岩の特徴

・①黒雲母②角閃石(海底火山の玄武岩起源)が互層となり、一部に③石英が層をなす。

・層理と片理が一致する(海底での堆積を反映)

・片理と線構造が平行する

・変成岩の場合は、節理は明確でない(重要視していない)

■褶曲

・石山正弘・大槻慶四郎「御斉所変成帯の褶曲と左横ずれ塑性剪断変形」(1990)の解説

・F1:最初の褶曲、F2:大きな褶曲で地形に反映している

・御斉所変成岩はW字型の急角度の褶曲、竹貫変成岩はドーム型の緩やかな褶曲

片理に現れた褶曲

参考:御斉所変成岩の褶曲(いわき市入遠野町)

河川護岸の矢羽根積み、大正年間。本年の台風24号で一部崩落したが、伝統工法で修繕された。

中田字曲沢の露頭

・角閃岩:玄武岩起源、「角閃石片岩」のように片状構造が発達していない。

・国際WS(10月27日~29日)でこの個所から収集した岩石には、黒雲母片岩と緑泥岩がある。

旧中谷第2小学校跡の「さとのいし」展示を見学。

・中田字中野の旧鉱山跡のペグマタイト。私の祖母もアルバイトで採掘していた。

・鞍掛産安山岩(火山岩):変成岩帯の中の安山岩は竹貫変成岩帯にもみられる。鞍掛産は「火道角礫岩」。

高木中田区長。この展示は、在野の地質研究者として貢献した三森たか子先生(元小学校教員)の指導の下に、高木氏など中2小PTA役員が設置した。

  二本ブナと山田集落の分岐点(中田字山田)

「妖精の森」(中田字山田)

本年10月27日~29日、NPO法人ふくしま風景塾は千葉大学大学院留学生プログラム(木下勇教授、霜田亮祐准教授)と連携して、国際ワークショップを実施した。「中田トレイル」の3か所に、変成岩をフトンかごに詰めた案内板(サイン)を設置した。

変成岩は福島県石川土木事務所と滝川良平夫妻の協力により、中田字曲沢から採集した。蟹澤先生と長瀬先生の鑑定により、黒雲母片岩と緑泥岩であることが判明した。

私の実家の「里山園芸民泊」で昼食兼勉強会

■地質と地形

石川町山橋地区、花崗岩の「方状節理」を反映した碁盤目状の谷(仲田作成)

花崗岩の方状節理(宮城県金華山)

・阿武隈山地の標高1000M近い山は、斑れい岩で周囲の花崗岩よりも浸食に強い残丘。

御斉所変成岩の地形(御斉所峠付近)

御斉所変成岩の地形(中田字宮後)

Q(仲田):「花崗岩地帯の石川町山橋地区の地形を見ると、丘の標高はほぼ揃っていて、緩やかな地形。一方御斉所変成岩の地形は、急峻な山という印象がある」。

A(蟹澤先生):「地形は、隆起・浸食・素材(地質)で決まる。石川町の花崗岩帯と変成岩帯のように隆起が収まっているところは、比較的地質と地形の関係(違い)が把握しやすい。一方で、飛騨山脈のように、現在も隆起している花崗岩帯は急峻な地形を示す」。

産総研 標本館展示

蟹澤先生:日本列島は、大陸プレートに太平洋プレートが沈み込むところに特徴がある。沈み込んだところでは、ヒスイになる。ヒスイは沈み込みを顕著に表す鉱石で、日本地質学会は「日本の鉱石」に選定した。変成岩は、比較的地表から浅いところで、両プレートが衝突した際の造山活動によって形成されたものと考えられる。褶曲もその際にできた。ヨーロッパ大陸プレートとインド大陸プレートが衝突して隆起しているヒマラヤ山脈と似ている。

【Wikipedia】「翡翠が産出されるところは全て造山帯であり、翡翠は主に蛇紋岩中に存在する。蛇紋岩は地殻の下のマントルに多く含まれるハンレイ岩が水を含んで変質したもので、プレート境界付近で起こる広域変成作用の結果としてできる岩石である。
一方のプレートが他のプレートの下に潜り込むことにより広域変成作用が起こり、同時に激しい断層活動で地上に揉みだされることにより蛇紋岩は地表付近に出現する。その途中でアルビタイト(曹長岩)や変斑糲岩、変玄武岩を取り込むことがあり、それらが高い圧力のもとでナトリウムやカリウムを含んだ溶液と反応して翡翠に変化したと考えられている」。

・蟹澤先生:御斉所変成岩はジュラ紀、花崗岩は白亜紀と年代差がある。

今出川渓流

角閃岩(角閃石、斜長石、緑簾石)

角閃石に貫入するアプライト

(Wikipedia)アプライト[1][2](英: aplite)は、ほとんど有色鉱物を含まない細粒の火成岩。花崗岩と鉱物組成が似ているために、半花崗岩(はんかこうがん)ともいう。小規模な岩脈として産することが多い。

蟹澤先生と長瀬先生によれば、今出川渓流は地質の方向を示す「線構造」に直交しているので地質を理解するの適していて、また多様に変化するので、貴重で重要な場所とのこと。

石川町は、東部の変成岩、中部の花崗岩、西部の堆積岩というように「地質の三位一体」の土地。花崗岩帯のペグマタイトは日本屈指だが、変成岩も今回の調査で重要性が認識できた。さらに石川郡全体でみれば、ジオパークのポテンシャルは高い。超一流の地質学が、私たちに勇気を与えてくれる。