1 落葉広葉樹帯
東アジア植物区系(日華植物区系)は、北半球の全北区を細分したものです。
さらに大きく照葉樹林帯と落葉広葉樹(ブナ科)帯に分かれます。
仲田種苗園の若い社員たちには、植生の大河を知ってもらいたいと思います。
中尾佐助著作集第Ⅳ巻
仲田作
落葉広葉樹帯の指標は、シャクナゲとサクラソウ。
ヒマラヤシャクナゲ’アルポレウム'(ブータン)
ヤクシマシャクナゲ(屋久島)
アズマシャクナゲ(那須連峰)
キバナシャクナゲ(大雪山)
2 照葉樹林帯
(1)ブータン
かって冬の王宮だったプナカゾンは標高1300mで、南米原産のジャカランタが咲きます。
そこから標高2300mの首都ティンプーまでが、照葉樹林帯。ところがこの標高差がブータン人の生活エリアで、集落と棚田が営まれています。また集落の近くの里山は放牧だったり、頻繁する山火事の影響で本来の森は残っていません。
wolakha周辺の棚田。
政府機関施設敷地内にシイカシ類の照葉樹が残っています。
国際空港があるパロ周辺の棚田。
西岡京治は中尾佐助や川喜田二郎の教え子で、ブータンの農業発展に貢献し、今でもブータン人に尊敬されています。
パロを見渡す丘に、西岡の墓があります。
中尾は照葉樹林文化論を唱えたが、稲作や納豆などの発酵食品が文化の特徴で、ブータンの市場では納豆を売っています。
(2)屋久島
荒川登山口から縄文杉までは、途中まで安房川上流沿いのトロッコ道を利用します。
このトロッコは1970年まで、屋久杉運搬用に使われました。
トロッコ道の途中にある小杉谷集落跡は、標高660m、林業関係者を中心に、最盛期には133世帯540人が居住して、小中学校もあり、賑やかでした。
安房上流域は、もっとも盛んに屋久杉が伐採されたところです。
しかし切り株には、多種類の照葉樹林やヤマザクラの実生苗が発芽し、日差しも得て成長して(切株更新)、杉主体から広葉樹主体の森へと変化しています。
宮脇昭さんは、照葉樹林帯の指標としてヤブツバキを重視しているが、屋久島には変種のヤクシマツバキが自生しています。この変種も含むヤブツバキは、宮城県沿岸部まで分布が広がっています。
次の写真は、太鼓岩から安房上流域を眺望したものですが、早春にはヤマザクラが見事に咲くようです。
照葉樹林とヤマザクラは、よく似合います。
やくしまじかん 「新緑とヤマザクラ」
(3)宮崎県綾町照葉樹林
国内最大の照葉樹林です。
地質は混在岩で、チャートと砂岩泥岩互層がグチャグチに混じり合っています。
イスノキ、バリバリノキ、クスノキ、タブノキ、カゴノキ、イチイガシ、ヤブツバキなどの常緑樹があります。
チャートと水が美しい渓流には、イロハモミジが自生しています。
宮脇昭さんは、照葉樹林帯渓流植生を、イロハモミジ-ケヤキ群集としている。
また3月には照葉樹林の中にヤマザクラが咲くようです。
屋久島では私はイロハモミジを見つけられなかったが、照葉樹林・イロハモミジ・ヤマザクラ・ヤブツバキのセットは、少なくとも綾町から福島県沿岸部まで、広がります。
照葉樹林域としては綾町と繋がる西都市掃部岳は、標高1223mの頂上付近が所要樹林から突き出て最南端のブナ林でそこにアセビが自生しているようです(林野庁ホームページ「尾鈴植物群落保護林」)。落葉広葉樹(ブナ科)帯にアセビが属するのは、屋久島と共通します。
2018年12月12日、照葉大吊橋付近。
(4)ギャップ
理論的には、照葉樹林は遷移が安定した極相林です。
しかし風倒木などよって、樹冠にギャップ(空間)ができると、そこから陽がさして、ヤマザクラなどの陽樹の埋納種子が発芽して、成長します。
このように、遷移は進行したり逆行したりするのが、自然の原理です。
宮崎県綾町の照葉樹林は、樹高20m内外の常緑樹で構成されます。地質は砂岩泥岩互層の風化土でもろく、またおそらく台風の影響も受けて、風倒木が多く見られます。
樹高20m内外の常緑樹が風倒すると、400平米(120坪)内外のギャップができます。
綾町の照葉樹林に点在するヤマザクラは、このようにして形成されたと私は考えます。
2018年12月12日、宮城県綾町川中自然公園周辺。
(5)和歌山県那智原生林
那智滝の上流、二の滝から三の滝石を巡るコース。
植物と登山好きにはたまらないコースだが、神域なので、今はガイド付きでないと、入れないようです。
高木層
クスノキ、タブノキ、イチイガシ、シイノキ、ホルトノキ、イスノキ、イヌマキ
スギ
低木のアセビは、屋久島ではシャクナゲとともに落葉広葉樹(ブナ科)帯、宮崎県掃部岳ではブナ帯に属していたが、那智では照葉樹林帯に属し福島県沿岸部まで分布は広がります。
2012年5月10日
台風被害があった直後で、山は荒れていました。
(6)奈良県春日原始林
(高木層)ウラジロガシ、ツクバネガシ、アカガシ、イチイガシ、コジイ、スギ
(亜高木層)イロハモミジ
(低木層)ヤブツバキ、アセビなど
2011年5月5日
(7)福島県いわき市鮫川中流域
(高木層)アカガシ、ウラジロカシ、ケヤキ、ヤマザクラ、アカシデ
(亜高木木層)イロハモミジ、ヤブツバキ
(低木層)アオキ、アセビ
宮崎県綾町の照葉樹林で確認された照葉樹・イロハモミジ・ヤマザクラ・ヤブツバキのセットが、福島県沿岸部まで広がっていることが確認されます。
次の写真は、中釜戸のシダレモミジ(イロハモミジの変種)