■ブータン花博2016
ブータン花博2016。
海外招待は日本(三春町)とタイ王国。
展示場はどこを選んでも良いとブータン政府に言われたので、私はパロ城が一番良く見える柳の下を要望しました。
そこは会場の入口部分で、なぜ中央の広い所を選ばないのかと疑問視されたが、後ほど感嘆に変わりました。
在インド日本大使館の要請で、盆栽師平尾成志さんとも一緒に仕事をしました。
JICA事業ですから、ブータン農林省職員に日本の造園技術を教えるのも大事な任務です。
私はこの時に在インド日本大使館の人達と親しくなり、翌年のブータン花博2017で日本式庭園を作庭し秋篠宮家長女の眞子様をご案内することになるが、大使館から外務省幹部になった人達との交流は今でも続いています。
ブータンは植物の種類が多く世界中の愛好家の憧れの地だが、ブータン人はその自覚がなくタイやインドから買った花壇苗を尊重しています。
ブータンのシャクナゲは200種で、西洋シャクナゲの母種もあります。
私はそのシャクナゲを生け花にして、ブータン人に郷土植物愛に目覚めて欲しいと思いました。
ブータンはほとんどが国有林で、外国人はもちろん国民も植物の採取ができません。
また花博の会期は6月だが、平地(と言っても標高2000m)でのシャクナゲの花期は5月上旬です。
そこで私は特別の許可を得て、ブータン農林省職員とともに、標高4000mの所で、シャクナゲを採集しました。
この辺りには、青いシャクナゲが咲き、ブータンスタッフが用意してくれたランチも最高でした。
人生初、おそらく最後の生け花は、ワンチュク国王はじめみなさんに好評でした。
私は市場が好きです。
首都ティンプーの市場で見つけたホウキが気に入り、ブータンオリジナルの垣根にしてみました。
ベースの四つ目垣は私たちが指導してブータン人が作りました。
彼らが、日本の造園技術を応用しながら、ブータンの素材でオリジナルの垣根を作って欲しいと願いました。
■三春ガーデン
私は2015年から2017年まで、JICA三春ブータン交流事業に参画。
2016年秋には、ブータン初の日本式庭園を作庭しました。
場所は首都ティンプーの郊外にある王立園芸造園センターの敷地内。
敷地南端を西から東に流れていた小川を活かす「活景」。
辺りはニセアカシアの藪になっていたので、伐採して東西の里山を借景に採り、滝石組を作りました。
約1ヘクタールの池泉回遊式庭園をブータンの仲間と作庭しました。
活景:里山の景観を活かす造園思想と技術。
ブータンでは建設用機械が極端に少なく、適当なユンボは調達できず、人力に頼りました。
流れは、デカい石を掘り起こし、上から石を落として、瀬や小滝を作りました。
こちらの思うような所に落ちないことも多いが、これがかえって自然な感じで、なかなか上出来に仕上がりました。
「自然の摂理(原理)に従え」(作庭記)。
■ブータン花博2017
日本式庭園。
ブータンはヒマラヤ山脈の東部に位置します。
タクツアン僧院はブータン最古、チベット仏教の聖地で、標高3120mの岩窟にあります。ここを源流の一つとするパロ川は最終的にはガンジス川に合流して、インド洋のベンガル湾に注ぎます。
私は枯山水様式をとり、滝石組の主石をタクツアン僧院に見立て、パロ川.ガンジス川を表す流れは青い片麻岩、そしてインド洋は白い石灰石を用いて無限大を表すために片方が開いた四角形をデザインしました。
片麻岩はインド亜大陸起源、石灰岩は古生代から中世代に存在したテチス海起源です。
私のコンセプトとデザインは、ゼロを発明した国インドのランドスケープアーキテクトたちからは大きな共感をいただきました。
タクツアン僧院は、ブータン最古のチベット仏教の聖地です。
標高3120m。
NHKBSグレートネーチャー「幸福の大絶景-ヒマラヤ.ブータン」。
酒井治孝京大名誉教授によれば、タクツアン僧院の地質は赤いガーネット(柘榴石)を含む片麻岩。
インド亜大陸プレートがユーラシアプレートに沈み込む際にテチス海堆積層を押し上げ、さらにインド亜大陸地殻が地下40キロの高温高圧によって片麻岩となり隆起してヒマラヤ造山運動となった。
したがってヒマラヤ山脈は、下部片麻岩上部石灰岩などの海洋堆積層だが、氷河の侵食によって後者は削られて、山体としては片麻岩が大部分を占めるようです。
私はタクツアン僧院をイメージして、枯山水滝石組の主石を据えました。もちろん片麻岩です。
秋篠宮家長女の眞子様をご案内するというプレッシャーの下、花博開催まで3か月を切ったにも関わらず、会場すら決まらない。
そんな鬱屈した気持ちで、車窓から川を見ていたら、青石と白石が転がっていたので、車を止めてもらい、河原に降りました。
すぐに伊勢神宮風の宮などの青石と白石が閃きました(写真4、5)。
元々ヒマラヤは、上部が石灰岩などの海洋堆積層、下部が大陸プレート地殻の片麻岩だが、上部は氷河で削られています。
それが川に転がり、青い片麻岩と白い石灰岩の美しいコントラストとなっていました。
私は、陸起源の片麻岩を滝石組と流れ、海起源の石灰岩はインド洋を表す空間に使用しました。
最初から地質を理解してのことではなく、まぐれ当たりでした。
ブータンのタクツアン僧院から流れた水は、最終的にはインド洋に注ぎます。
そしてモンスーンによってインド洋の水蒸気がヒマラヤ山脈に雨を降らせて川になります。
まさに循環という無限の自然観。
私はインド洋を表す空間に白い石灰岩、さらに片方に開く四角形にして、無限をデザインしました。
ブータン花博2017は、首都ティンプーの街のシンボルであるメモリアル.チョルテンが会場でした。
私が作庭した日本式庭園は、チョルテン最前列の最高の場所。
ブータンの自然や自然観を表した枯山水は、チョルテンの白ともマッチして、6月4日にご案内した国賓の眞子様やワンチュク国王はじめ王族たちに好評でした。
特に国王は喜び、その日の夕方、私の宿舎にたくさんの贈り物を届けてくださいました。